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『酒番日記』 映画、音楽、本、時々酒、のこと 第15回

友人の結婚式の席に招かれた
今までは酒場の主たる者は表舞台に出ることなく
黒衣に徹するべきと思っていた
だから出席することはなかった

あの路地裏での数年間
特に世界中の人々が距離を保ち
声を潜めるようにしていた数年間
少しだけ距離の感覚が変わった

招いてくれた友人はいつも酒場にいてくれた
多岐に渡る深い会話、酒の知識
世界的な視点とその言語、そして同郷

たくさん話をした
小さな小さな酒場から大きな大きな世界が広がった

自身に課しているお客様との距離感
とても大切にしているこの感覚
この頃から少しだけ近くなった
俗に言う「価値観」が少しだけ変わった

その酒場を昨年春に幕を閉じた
またその距離が遠くなった

そんな時に祝いの大切な「ハレ」の席に招かれた
故郷の古い言葉で「およばれした」
縁がつながっていることに感謝した


その祝いの場にも思い入れが深かった
昭和3年設立の会員制社交クラブ
若かりし頃、数回連れていっていただいた
その場には憧れの時間が流れていた

江戸時代の古地図にもある大名屋敷が立ち並ぶ狸穴坂
時代の流れと世の中の流れとともに場所を変えながらあり続け
旧尾張藩主の大名屋敷跡に落ち着いたそのクラブのバンケットホール

自然光を採り入れ、天井が高く開放的な空間に
余計な装飾はなく最低限に必要な色彩と
スタッフの心地好い対応に彩られたその時間


案内されたテーブルに恐縮した
その位置に座りそこに居ることの意味を考えた
ここに居る自身の装い、礼を以ている服装かどうか、振る舞いはどうか
背筋が心地好く伸びた
この席に居ることを客観的に見ながら
心地好い時を過ごした
常に姿勢を正し、襟を正し、酒場の主が失礼のないように
とても美味しく酒をいただいた

酒場で毎週響いていたギターの音色がホール全体に響いた
とても心が震えた
初めて感動した
そして色々なことに感謝した

酒場の意義、流れる時間、そこに居るということ
そこにあるということ
酒場の奥深さを再認識し
あの10年間に改めて感謝した

酒場でことある毎に選曲し流していた楽曲
二人の顔が揃うと選ぶことが多かった楽曲
二人の大切な共同作業の場面で選ばれた楽曲

今一度ここで聴きたい、聴いてもらいたい、残したい

The Miseducation of Lauryn Hill より Can't Take My Eyes Off Of You


世界平和を声高らかに唱えるつもりは
毛頭ないし出来ない
ただ、やさしい時間を体感した今この時間を振り返り
やはりこういう時間は必要だと強く感じた

人と人が顔を会わせ、酒を酌み交わす和やかな時間、笑顔溢れるやさしい時間

世界中に分け隔てなく少しでもやさしい時間が流れますように

酒の席が美しい時間でありますように
醜い時間になりませんように

令和4年大寒を迎える佳き日に
酒番 栗岩稔

栗岩稔プロフィール
「鎌倉THE BANK」「 銀座7丁目」「木挽町 bar sowhat」「銀座Sony Park Bar Morita」で大人の集う酒場を作り上げ
「人」と「酒」と「酒場」をその歴史や文化から掘り下げ伝えていく唯一無二、フリーランスの「酒番」として活動中
2021年夏よりWAH!radioパーソナリティ

開局1周年を迎えた WAH! Radio www.wahradio.org  にて
お耳にかかれますように

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