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『酒番日記』映画、音楽、本、時々酒、のこと 第2回


『酒番日記』映画、音楽、本、時々酒、のこと

師走に入り、大雪を迎えた夜にふと想い出す。
あの女性がはじめて訪れた寒かった夜のこと。

「あまりお酒が強くなくて…」
そういう彼女のお好みは、ワインベースの薬草酒ヴェルモットのロッソをオンザロックスで。
空間が保たれた手指でグラスをやさしく持ち、柔らかに微笑みながら少しずつ口に運ぶその姿。
酒だからといってその姿勢が崩れることもなく、酒場のカウンターの幅が広く感じるその佇まい。
「ごちそうさまでした、おやすみなさい。」
そう言い残し、赤茶色のコートを手に、静かに扉を開け、優雅にコートを羽織る路地裏の風景。
美しい景色に乾杯、とでも言いたくなる、寒かった夜の温かなひと時。

時が流れ、暑かった夏の終わりのある日の夕暮れ。
斜陽射し込む路地裏に、夕焼け色のワンピースを上品に着こなし、その女性は現れた。

「今日は何をいただこうかしら…」
酒場の主が徐に作りだしたその酒は、カンパリの赤、ヴェルモットの茶色が程よく溶け合い、
ジンの香りと程よい苦みが、夏の夕暮れに似合いのカクテル「ネグローニ」
「あ、美味しい…」
カウンターの幅と空間が気にかかる暑かった夏の終わりのある日の夕暮れ。
「ありがとうございます、いってきますね」
夏の終わりの音に紛れたその言葉。

年を重ねた師走大雪のころ
その夜の注文は「Stinger」針とか棘とか、そんな意味を持つ透明感のある茶色のショートカクテル。
「ありがとうございます」
その言葉を最後に、その美しい景色は二度とない。

今年も寒い夜がやって来た。
誰もいない夜更けには、Sophisticated LadyをBoz Scaggsのヴァージョンで。

令和2年12月吉日
酒番 栗岩稔

プロフィール:木挽町路地裏 bar sowhat 店主として日々人に向かい、酒を通して時間を提供する。
ブランドマーケティング業、服飾業等の経験から、事業提案、イベント企画運営、パーソナルスタイリング業も行う。来春から、インターネットラジオにて番組パーソナリティも予定するなど多岐にわたり活動。

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