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『酒番日記』 映画、音楽、本、時々酒、のこと 栗岩稔 第13回

立冬を迎えた日曜の午後のライヴイベントにて
「洋服という表現で良いですか?」と訊かれた
この質問については独自の見解があり、長い長い回答になるため手短に答えた

今ここで、伝え切れなかったことを栗岩稔的独自評論ということで徒然と

そもそも「洋服」という言葉の対義語は「和服」ということになるかと

日本という国が「洋」の服を選んだのは明治という時代から始まった
明治維新という革命から100年後に生まれた私にとっては最も興味深く学び多い時代のこと

中央集権型政治として表向きの政府が定めた断髪、脱刀、制服、略服の勝手令が明治4年に発令
強制的な法律ではないものの結髪禁止令という法律にも見られるように半ば強制的になり
1860年に渡米していた福澤諭吉が帰国後に執筆発表した「西洋衣食住」などによる広範囲に渡る啓蒙活動となっていく

この時期に大衆化したものは数多く、粗食中心の江戸食文化から肉食化へと広がり
幕末のペリー来航によってもたらされた鉄製品の加工技術
ガラス製品、葡萄酒を中心とした洋酒、薩摩軍楽隊による西洋音楽
都市の肺臓という名目の下で環境整備を目的とした公園の整備
ちなみに、日比谷公園の開園は明治36年で公園内に初めて出来た公立図書館
そして、日本で初めてのバーと言われる「函館屋」が銀座尾張町に開店、など
数ある西洋化の中でも一番影響を受けたものが装い全般、特に洋装化された衣服かと
それまでの生活様式全体の大幅な変化に戸惑いがあったことは想像に難くない

この時代を表す象徴的な映画
それは、戊辰戦争を題材としてトムクルーズ主演、渡辺謙、真田広之共演による「ラストサムライ」
ご批判承知の上、こちらも栗岩稔の映画評論を少しだけ

物語としては、近代化した明治新政府と武士の心を貫き通す侍たち
実際にあった日本人同士の戦争を舞台にその生き様や死に様を描いていく内容
しかし、この中で大事な役回りの真田広之の演技、画面から溢れるまでの存在感
本編でも随所に感じられるものの何故か尻切れトンボ感が否めないトムクルーズとの絡みの場面
どうにも感じる違和感はきっと、製作陣に名を連ねる主演のトムクルーズの意向が
だいぶ取り込まれた編集意図なのではないかと思うが…是非ご覧いただきたく
この中で捕らわれの身になる米国軍人役のトムクルーズが山村に繰り広げられる日本の生活様式に戸惑いながらも日本人の美意識や生活を知り得るために
「和服」を身に付け体感し生活や意識に気付いていく場面も必見

ところで、最近出向くことが多い九段
左手に大山巌の銅像、眼下に千鳥ヶ淵、遠くに皇居、右手に靖国神社
その立地を決めるために奔走し貢献した長州藩出身で維新十傑と言われる大村益次郎の銅像がそびえ立つ
なかなかな意味深な場であり何かの縁を感じる九段坂上

映画「ラストサムライ」では明治新政府の外務担当として軍備に尽力し多大な貢献をしたと感じられる人物ではあるものの
アメリカをはじめとする諸外国との密約を感じさせる演出
また侍の心を失くした少し悪い役処として描かれている大村益次郎
それを演じるのが「日本のいちばん長い日」などの映画監督原田眞人
何とも不思議な因縁を感じつつ大村益次郎という人物を再考し薩摩藩出身の大山巌を感じながら九段坂を下りる
そこにあるのは昭和館そこでもまた、ふと考える
時代が流れて昭和の時代終戦前後の日本
有事の際には戦地に赴くことが出来る準戦闘服としての国民服の制度
物資不足の当時の日本国民には有意義なものであったに違いないと思うが…
この国民服という「洋服」がモードになり制服意識が強く残り
その後の日本人のスーツが制服感覚となりとりあえず着ていれば良いという意識が多くあったのではないかとも思う

また、終戦後米国進駐軍GHQ管理下の日本では
CIE(民間情報教育局)という組織の下
教育、映画、演劇、放送、音楽、出版など民族的な文化が封建的、軍国主義的なものとして規制され圧殺されたこの時代
軽音楽、ジャズなどの米英の音楽は認められ世の中に広まり一般に浸透し日本の歌謡界の発展に寄与
情報を伝える機関としてラジオ放送が大きな役割を占めその後の情報、思想、教育、文化に多大な影響を及ぼしたのは言うまでもなく
戦後復興の最中の1950年に始まった朝鮮戦争による景気回復高度成長期に向かう日本の中
国民服の記憶と制服意識を残しつつ大量生産大量消費されることになったスーツ

ちなみに、女性の「和服」が「洋服」へファッションへと変化していく過程で大きな影響を及ぼしたと言われているのが日本橋老舗百貨店「白木屋」での火災事故
当時「和服」を制服としていた女性社員着物の動き辛さや裾などの可動範囲の少なさから逃げ遅れ死亡者が数多く出たこともあり「洋服」の制度へと変わり
洋装化へ加速し女性のファッションスタイルも大きな転換期を迎えたとも言われている

時代はさらに巡る制服のように同じに見えるリクルートスーツという言葉が出来上がる
そして、泡沫経済の崩壊後の長引く不況の中で増える個性、働き方の多様化とともに
衣服がメディアとして自身のプレゼンテーションツールとして存在するようになった現在
「洋服」と「和服」という対義語は繰り返される時代の動きと共に違った意味で消え行くものだと思う

そんな自分もアメリカ文化に感化され公私共に「アメリカ」にどっぷり浸かった若い頃を思い出し
戦後復興期の日本で大ヒットした女性ジャズヴォーカリスト
江利チエミ/Tennessee Waltz を聴きながら
明日人前で着る「洋」服を考える寒くない冬のはじまりの夜


酒番 栗岩稔

参考資料
○日本衣服史 増田美子編 (吉川弘文館)
○洋服と日本人―国民服というモード― 井上雅人著 (廣済出版)
○リクルートスーツの社会史 田中尚弥著 (青土社)
○選曲の社会史―洋楽かぶれの系譜― 君塚洋一著 (日本評論社)

「鎌倉THE BANK」「 銀座7丁目サローネ」「木挽町 bar sowhat」「銀座Sony Park Bar Morita」で大人の集う酒場を作り上げ、「人」と「酒」と「酒場」をその歴史や文化から掘り下げ伝えていく。唯一無二、フリーランスの「酒番」として活動中。

2021年夏よりWAH!radioパーソナリティ

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