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『美食通信』第六回 Kisvinワイン騒動記

『美食通信』第六回 Kisvinワイン騒動記

 今、日本ワインがブームです。しかし、筆者はフランスワイン、その中でも四半世紀をボルドーワイン一筋に費やし、ようやく残り少ない人生、もう一方の雄、ブルゴーニュワインを少しでも嗜めればと研鑽の日々。とてもとても日本ワインまで手が回りません。しかし、そんな筆者がひょんなことからある日本ワインを探し回るはめに。偶然に次ぐ偶然とはこのことで、これも縁かとそのワインに注目していこうと思っている次第。で、そのワインこそ、山梨県は甲州市にあるKisvin(キスヴィン)ワイナリーなのであります。

 事の発端は420日にNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』で放映された「笑顔をうつす、ひとしずく~ワイン醸造家・斎藤まゆ」を見たこと。自分は女性シェフとか、女性醸造家とかに弱い。1990年代半ば、パリを海外研究で訪れていた時も、パリで初めて星を取った料理界のフェミニスト、ドミニク・ヴェルシーニの「カーザ・オランプ」や当時二つ星取って話題になっていた「ルドワイヤン」のジスレーヌ・アラビアンといった女性シェフの店を訪れ、今では、ブルゴーニュの造り手でもボーヌのファニー・サーブルといった女性醸造家のワインを好んでいる次第です。で、ボーヌでは栗山朋子さんという女性醸造家が「シャントレーヴ」というブランドのワインを造られていて、この斎藤さんがまさか日本ワインの造り手とは番組を見るまで存じ上げなかったのです。筆者の日本ワインへの門外漢ぶりがお分かりになるか、と。

 Kisvinワイナリーのワインは、オーナーであられる葡萄農家萩原康弘氏らが丹精込めて作られた葡萄を斎藤さんの手でワインにすることで、「世界に通用するワイン」を造ろうというチームの夢の実現への過程であることが描かれていました。ANAのファーストクラスに採用された「甲州」をはじめ、番組では一つの葡萄から三種類のワインを造り、それをブレンドして製品にした「シラーロゼ」といった凝った醸造法のワインなどが紹介されていました。そして、最後に取り上げられたのが「ジンファンデルロゼ」。実は高温多湿の日本にジンファンデルは向いておらず、雨が多いと葡萄が水っぽくなるのに加えて実が割れて、ワインが造れないのです。そこでジンファンデルを全部切り落とし、他の葡萄に差し替える作業が。そして、最後のジンファンデルは斎藤さんではなく、もう一人の若い醸造家川上黎氏が造ることに。そして、川上氏の造ったワインをスタッフ皆が笑顔で飲みながら、新たな挑戦に向かって行くというエンディング。

 さて、その番組を見た後しばらくして、Facebookの「知り合いかも」を覗いていると、「川上黎」の名が。どこかで見た名前だなあ、と思い、プロフィールを見るとKisvinワイナリーの醸造家とあるではありませんか。ああ、あの最後のジンファンデルを造った方だと思い出し、何かの縁と友達申請させていただいたところ、早速承認の返事が。まだ、二十三歳とお若い。女性と若い方は応援したいタイプなので、早速川上君のFacebookを拝見しました。すると、冒頭に叔母さまらしき方が書かれた番組に対するツイートが載っていて、「黎くんのジンファンデル、まだ購入できそうです。……交渉してみてください」と書かれていたので、早速、メッセンジャーでジンファンデルあったら、譲って下さいと連絡したところ、ワイナリーにはもう在庫はないということで、ワイナリーのHPにある取扱店を教えていただきました。

 よくよく考えてみれば、日本ワインブームの中、テレビで取り上げられ、最後のジンファンデルなどと喧伝されているのです。しかも、醸造所自体が文字通りのガレージワイン、住宅街の中にあるガレージ位のスペースで造っているのですから、生産本数が少ないのは目に見えて明らか。それでも日本ワインに疎い自分は取扱店のHPを見てみることに。筆者の住む千葉県には「いまでや」が載っていたのですが、ジンファンデルどころか、Kisvinのワインはすべて売り切れ。大阪に行くとワインを飲みに寄る「タカムラワインハウス」も同様。16000円もするピノ・ノワールなども品切で。これは大変なことになっていると。というか、ジンファンデルがリストにない取扱店が結構あり、これはダメだと諦めかけたとき、新潟県の上越市にある「寿酒店」が取扱店に挙がっていたのです。早速、店のHPを見ると「ロゼが入荷しました」という写真付きの記事が。その中にジンファンデルもあるではありませんか。でも、通販はやっていない模様。

 ところがこれも偶然なのですが、筆者がワインを指南し、学生時代にワイン・エキスパートの資格を獲得したW君が上越出身だったのです。W君は現在、都内のNTTに勤められていますが、ちょうど時はゴールデンウィーク。W君は一人っ子でお父様が地元の名士でいらっしゃるので、上越に帰っているのではないかと思い、連絡するとやはり上越にいました。そこで寿酒店までおつかいに行ってもらったところ、ギリギリセーフで購入出来たというのです。何たる僥倖!川上君に買えたと報告したら、驚かれていました。寿酒店の店主はKisvinワインのファンなのでしょう。W君に、冷やし過ぎてはいけない、やや高めの温度で。二日目、三日目と味が変化するので試してみると良いとアドヴァイス下さったそうです。

 偶然に偶然が重なり、手にすることが出来た「最後のジンファンデル」。エキスパートの資格を持つW君も交えて、しかるべくテイスティングの場を設けるつもりです。また、川上君がKisvinの基本の「甲州」をぜひ飲んでみて下さいとおっしゃるので、彼に教えられたANAの通販で購入することが出来ました。これも何かの縁。川上君の造るワインは必ず入手してテイスティングして行こう、と。もちろん、Kisvinのワイン全般にも注目していきたいと思います。

今月のお薦めワイン 「元料理人の女性が造る伝統的なキャンティ・クラシコ」

「キャンティ・クラシコ・リゼルヴァ 2015年 ファットリア・ディ・ペトロイオ」 5500円(税抜)

 フランスの赤ワインの両雄がブルゴーニュとボルドーであれば、イタリアの赤ワイン にもピエモンテとトスカーナという二つの偉大な産地があります。前回、ボルドーを紹介させていただきましたので、今回はイタリアワインにおけるボルドーに相当するトスカーナ地方のワインを紹介させていただくことにします。トスカーナのワインの特徴はサンジョヴェーゼという葡萄からワインが造られていることです。トスカーナワインの最高峰、ブルネロ・ディ・モンタルチーノはブルネロ種という葡萄から造られていますが、これはサンジョヴェーゼの亜種です。そして、この原点であるサンジョヴェーゼから造られるワインが「キャンティ」です。キャンティは価格的にもピンからキリまでなかなか選ぶのが難しいのですが、「クラシコ」とつくワインは、現在、広域のキャンティの中でも、13世紀以来の中核にあたる地域で造られているものを表わしています。さらに、通常のキャンティの法定熟成期間が一年なのに対し、「リゼルヴァ」は二年とワンランク上のキャンティを楽しむことが出来ます。生産者はオーナーの父が著名な神経学者でワイン造りに携わる時間がなく、代わりに料理人をやめ、ワイナリーを運営する娘のディアナ・レンチさん、と今回連載の女性醸造家繋がりで選ばせていただきました。ボルドータイプのスーパートスカンが流行のトスカーナで、伝統を重んじつつ、サンジョヴェーゼの現在形を伝えて行こうという心意気はまさに一流の矜持です。

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株式会社AVICOまで

略歴
関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。
専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。
著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。
関修FACE BOOOK
関修公式HP

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