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『美食通信』第九回「昼ワインのすすめ」

『美食通信』第九回 「昼ワインのすすめ」

 東京は緊急事態宣言下にありながら五輪に浮かれ、感染拡大は五輪終了後にも収まらず、果たしてどこがピークなのかもわからない状況。酒類の提供は禁止され、時短営業はいつまで続くことやら。しかし、五輪が始まる前の一時、開催を正当化するためなのか知りませんが、規制が若干緩和されました。時短営業は変わりませんが、人数・時間を限って酒を出してよいとか。外は、例年増す暑さ本番といったところ。そんな時は、涼しい店で眩しい日差しを眺めつつ、昼ワインなどしたくなるものです。コロナでなければ正々堂々飲めるのですが、別に規則違反でないのに何となく後ろめたいような気持ちになるのが残念。

 筆者の住む街は「まん防」の対象区域で、二人までで九十分以内なら酒の提供は可能でしたので、待ってましたとばかり、近くに住む高校の同級生のH氏と隣駅前にあるイタリアン「di Formaggio KURA6330 」へ。船橋にある牧場の経営するイタリアンで、自家製チーズ、地産地消の野菜を使った料理がなかなかの美味。ランチはコースが基本ですが、ワインを飲むのでアラカルトでよいかと尋ねたら、快く了承して下さった。有難い。「昼ワイン」のポイントはがっつり食べるのではなく、あくまでワインを楽しむことが目的。そこで、アンティパストの盛り合わせと自家製チーズを頼んで、ワインに興じることに。もちろん、最後のドルチェは忘れずに。

 さて、ワインは何にしようか。筆者は基本、赤ワインしか飲みませんので、昼といえば、重すぎず、かといって、イタリアワインの特徴の酸が目立つのも厳しいか、と。日本ワインもありましたが、やはり店で飲むと一万円超えで気軽ではなくなってしまいます。そこで面白いものを見つけました。ピエモンテの赤ワインなのですが、ネッビオーロでもなければ、ドルチェット、バルベーラでもない。ブラケットというブドウ品種のワイン、「アックイ」というDOCG(産地呼称)を名乗っています。通常、アックイのブラケットは「ブラケット・ダックイ」というDOCGで発泡性のワインが造られています。前回、伊香保で登場した「ランブルスコ」のようなワインです。ところが一か所のワイナリーだけ、通常の赤ワイン(スティルワイン)をダックイで造っているそうです。「ソシエタ・アグリコーラ・ボット」という造り手です。店で飲んで6000円ほどでした。

 ブラケットは色が薄く、イチゴの香り、酸は柔らかでフルーティーなワイン。ブルゴーニュをアバウトにしたような感じ、「ブルゴーニュもどき」と勝手に呼ばせていただいております。実はピエモンテには他にも「ペラヴェルガ」というローカルなブドウ品種があり、これも「ブルゴーニュもどき」のようなワインが造られています。こちらはDOC「コッリーネ・サルッツェージ」のエミディオ・マエロによるワインをアヴィコさんで購入することが出来ます。イタリアの赤ワインはネッロ・ダヴォーラやプリミティーヴォといった南のブドウの濃厚な果実味か、キャンティのようなはっきりした酸のどちらかに思われがちですが、ピエモンテはバローロ、バルバレスコが造られるネッビオーロに始まり、ブルゴーニュに比肩するユニークなワインが多々存在します。マイナーなブドウ品種を押さえておくのがコツと言えましょう。値段は手頃なものばかりですので。

 「昼ワイン」はのどかな郊外の住宅地のみでなく、都市のど真ん中で行なうのも乙というもの。筆者はソウルや台北で「昼ワイン」するのが好きです。フレンチでも日本に比べディナーのボリューミーさは相当なものなので、昼にワインはしっかり飲むものの、食事は控えめにしておく必要があります。特にソウルは。印象に残っているのは、2014年にソウルに出かけた際、「アスリーヌ」での昼ワインです。アスリーヌはパリにあるグラフィック本など高級書籍出版社で、江南にカフェ付きの支店を出していました。ソウルは江南のお洒落なカフェに行けば、何処もワインリストを用意しているくらいワインが普及しているのですが、フランスワインとなるとまだ心もとない店が多く、アスリーヌなら大丈夫だろうと出かけた次第です。カフェに入り、ワインリストを所望しました。テーブルには手頃なイタリアワインの紹介のポップが。すると、ボルドーはサン=テステフの第四級、シャトー・ラフォン=ロシェの2007年が載っているではありませんか。もちろん、昼飲むにはお高いのですが、もうこれしかない、と。注文すると店の人がこれでよろしいのですか、と再確認するほど。いいんです。ここはパリの書店のカフェなのですから。

 といいつつ、食べ物はラザニアと野菜がないのでシーザーサラダを二人でシェア。案の定、韓国サイズ?で、最初に出てきたサラダが二人でも食べきれないくらいボリューミーで、これで一人分?と疑うくらい。ワインが主役なのでサラダは合わないなあ、と思いつつ、ラフォン=ロシェを飲むも、これが実に美味しい。自分の中でラフォン=ロシェは美味しくないワインの一つでしたので、代変わりしてスタイルも変わったのね、と。以前はギスギスしたタンニンが喉に絡みついたのですが、今やスムースで果実味もしっかり感じられるではありませんか。そうする内に、お出ましのラザニアも同様に食べきれないサイズ。ワインには合いましたが。まあ、つまみみたいなものですので残すことは気にせずに。

 そして、ここからが韓国風サーヴィス。何となく、食べる手が止まりだした頃、フルーツの盛り合わせがこれもビッグサイズで登場。もちろん、頼んでいません。お店からのサーヴィスです、と。これはそれまでも何度か体験したことがありました。昼時にカフェに出かけ、ボトルでそれなりのワインを頼むと何かサーヴィスで出てくるのです。多くはフルーツの盛り合わせ。「アスリーヌよ、おまえもか」。そう、確かにここはソウルなのですから。

 「昼ワイン」には思いがけない喜びもあるものです。是非、お試しあれ。

 

今月のお薦めワイン

「イタリアワインの最高峰 バルバレスコ」

「バルバレスコ リゼルヴァ 2013年 マイネルド」6900円(税抜)

 ジビエに合うフランスワインとしてブルゴーニュの「ポマール」をご紹介し、イタリアにもそれに匹敵するワインがあるということで、ピエモンテの「ゲンメ」をご紹介しました。ポイントはピノ・ノワールに比肩するネッビーロという葡萄品種でした。ただし、ポマールがコート・ドールでも白に銘酒の多いボーヌ産という変化球であり、王道はニュイのワイン、そこで「モレ=サン=ドニ」を前回紹介させていただきました。ということで今回は、ネッビオーロの王道「バローロ、バルバレスコ」から「バルバレスコ」を紹介させていただきます。「ゲンメ」がピエモンテ北部であるのに対し、両者は南部のアルバ地区で造られています。「バローロ」が「ワインの王であり、王のワイン」と呼ばれるのに対し、法定熟成期間がやや短く、ダイナミックな力強さこそバローロに及ばないものの、バルバレスコは繊細さとバランスという点で優れていると言われています。バローロがブルゴーニュにおける「ヴォーヌ・ロマネ」であれば、バルバレスコは「ジュヴレ=シャンベルタン」に相当すると言えましょう。

今回ご紹介するバルバレスコは「リゼルヴァ」と熟成期間の長いワンランクの上のもの。法が定めるには樽と瓶で四年以上熟成させるのですが(バローロは五年以上)、今回の造り手、1920年設立のマイネルドは樽で五年熟成させ、さらに瓶熟させています。また、自然酵母、樫の大樽を用いるなど伝統的な醸造方法で格調高いワインを造る優れた生産者です。まだまだ寝かせることも可能ですが、熱い夏を乗り切るのにさっぱり、あるいはシンプルに美味しいお肉を食される時などにピッタリだと思われます。是非、お試しあれ。

ご紹介のワインについてのお問い合わせは
株式会社AVICOまで 

略歴
関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。
専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。
著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。
関修FACE BOOOK
関修公式HP

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