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『美食通信』第5回 今回は「美食」ではなく、「美男」のお話を

『美食通信』第五回 今回は「美食」ではなく、「美男」のお話を
田さんから筆者の「美食」以外の業績の紹介もされたらどうかとご提案いただきました。ちょうど、去る4月13日に、光文社知恵の森文庫から拙著『隣の嵐くん―カリスマなき時代の偶像(アイドル)―』が発売になりましたので、手前味噌になりますがお言葉に甘えて、今回はそのお話をさせていただくことにします。
 本のタイトルに登場する「嵐」とは、昨年末で21年間にわたる活動を休止したあのジャニーズ事務所所属の国民的アイドル「嵐」のことです。本書は元々、嵐が結成15周年記念のライヴを9月にハワイで行なうことになった2014年、その直前の6月に単行本として公刊したものです。本邦初の「嵐」の本格的評論として、おかげ様で三万部近く売れました。そこで嵐の活動停止を受け、今回、新たに総括的な一章を書き下ろし、文庫化が叶った次第です。文庫本を出すことは物書きとしての筆者の長年の夢でしたので素直に嬉しく思っております。また、新書はすでに2018年、鹿砦社から『イケメンホストを読み解く6つのキーワード』を出しておりますので残るは選書・叢書くらいでしょうか。
 単行本の帯に「明治大学の人気講義が本になった」と謳われていますように、法学部の教養科目「自由講座」で嵐を取り上げていたのをもとに本にしたのでした。この講座は東洋大学の哲学科の助手だった1994年、「社会心理学」の担当を依頼され始めたものでした。セクシュアリティについて講義してほしいというリクエストだったのですが、真正面から取り上げると昨今と同じ「セクハラ」だとか「フェミニズム」などお堅い政治色の強いものになってしまいますので、「男は度胸、女は愛嬌」というのはもう古く、これからは男の子も見た目が肝心、「美男」じゃなければというお話をしたのです。そして、1996年に『美男論序説』という本を出すことになりました。
 実際当時、ちょっとした「ゲイ」ブームだったり、今はマッチョのお手本の武田真治さんがいしだ壱成さんと共に「フェミ男」君として大人気だったりと男性のセクシュアリティも多様でファジーなものになっていたのです。そして、講義の中で筆者が重要視したのが「SMAP」でした。1991年CDデヴューで当初はまだ森君がいて六人組でした。これからはSMAPの時代が来ると「SMAPPINGする感性」という論文を書いたくらいです。画一化することなく、それぞれのメンバーが自分の個性を発揮しながら、それでいて、いやそれでこそ、グループとしての魅力も発揮できるという在り方はマニュアル化されない「美男」のモデルになるであろう、と。
 そして、その後ジャニーズは講義の大きな柱の一つになりました。TOKIO、V6、ジャニーズJr、そしてその流れで「嵐」も取り上げたのです。しかし、2008年の「truth」を聴くに及んで、時代は間違いなく「嵐」を求めていると確信しました。そして、ひょんなことから「嵐」の本を書く機会を得たのです。実は当初、ちょうど第二次韓流ブームで「東方神起」について書けないかという依頼があったのです。もちろん、筆者はK-POPにも目配りを欠かさず、とりわけ2009年の韓国ドラマ『美男(イケメン)ですね』はそのタイトルからして、大々的に講義で取り扱ってきました。しかし、筆者の興味はそのドラマに出演したイ・ホンギがヴォーカルを務める「FTIsland」やジョン・ヨンファがリーダーの「CNBLUE」といったバンド系の韓流グループにありました。ですので、「東方神起」はお断わりしたのです。すると、「何なら書けるのか」と尋ねられ、筆者は「嵐」なら書けると答えたのです。出版社側も「嵐」なら売れると思ったのでしょう。Goサインが出たのです。
 では、どうして時代はSMAPから嵐に移行したのか。そのヒントは本のサブタイトルに示されています。SMAPは各メンバーが個性的ではありますが、中でも「キムタク」が圧倒的なカリスマ性を現在も維持しています。それに対して、嵐にカリスマはいるでしょうか。筆者は2008年の「truth」で相葉君の存在こそ「嵐」の「要」であることに気づきました。その時点でドラマの主演をしていない唯一のメンバーが相葉君だったのです。今でこそ、嵐といったら相葉君と思う方は多いと思いますが当時はそうではなかった。つまり、相葉君、大野君といったメンバーが他のメンバーと対等に扱われるようになれば、カリスマなきアイドルグループとして「嵐」は新たな時代を創るに違いない。そして、事実その通りになったのです。
 筆者の相葉君贔屓は、例えば、同じジャニーズの「NEWS」ならマッスーこと増田君贔屓ということになります。役者も「主役級」ではなく、オダギリ・ジョー様のような主役でも端役でも分け隔てなくサラッとこなしてしまうタイプが好きです。いやこれも時代の趨勢で、菅田将暉君などその系譜ではないでしょうか。さらに遡れば、トルシエジャパンに目をつけた筆者は2000年のシドニーオリンピックの前から、2002年の日韓ワールドカップは稲本潤一選手が「要」だと授業で取り上げ続けました。彼のポジションは「ボランチ」です。
 このように四半世紀以上も「美男」について語り続けてきた訳ですが、「序説」に終わっていた「美男論」の「本論」の一つとしても、この『隣の嵐くん』を読むことは可能かと思います。機会があれば、是非手に取っていただければ幸いです。

 

今月のお薦めワイン  「名門ティエンポン家が造るカリテプリなボルドー」

「シャトー・オー・プランテ サン=テミリオン グラン・クリュ 2015年 ジャック・ティエンポン」 6160円

 

フランスの赤ワインの双璧はブルゴーニュとボルドー。また、ボルドーの中も左岸のカベルネ・ソーヴィニヨン主体のメドックとメルロ主体の右岸のリブールヌの二つのタイプに分かれます。五大シャトーはメドック。メルロを使った世界最高のワインとして有名な「シャトー・ペトリュス」は右岸のポムロールのワインです。そして、そのペトリュスを凌駕する高価なワインとして有名なのが同じポムロールの「ル・パン」。この「ル・パン」を造るのが銘酒「ヴュー・シャトー・セルタン」の持ち主ティエンポン家です。ティエンポン家ではリブールヌのもう一つの重要なアペラシオン、サン=テミリオンでも「ル・パン」のような希少性のある高価なガレージワインを造ろうと購入したのがこのオー=プランテでした。そして、セカンドワインとしてこのシャトーの名前を残し、2011年「リフ」というブランドを立ち上げたのです。2015年はグレイト・ヴィンテージですので「リフ」ですと四万円以上します。セパージュはメルロ80%、カベルネ・フラン20%。サン=テミリオンにしてはメルロ多めですが、ここはポムロールの造り手の腕の見せ所。このセカンドももう、市場ではほとんど見かけることが無くなってきましたので、これが最後のチャンスかも。どうか、お見逃しなく。

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略歴
関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。
専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。
著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。
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