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『酒番日記』 映画、音楽、本、時々酒、のこと 第18回

『酒番日記』 映画、音楽、本、時々酒、のこと 第18回

COOL BIZ という言葉を聞いて久しい 街ではすでに当たり前のようにカジュアルスタイルのビジネスマンを見かける そもそも、COOL BIZ って何だっけ、と思い調べてみた 環境省ホームページによると、2005年(平成17年)に 現都知事の小池百合子さんが環境大臣を務めていた当時 小泉純一郎首相が旗振り役で「夏場の軽装による冷房節約」を掲げ 「ノーネクタイ、ノージャケットキャンペーン」とし 室温28℃に対応出来る軽度の服装着用を推進したとのこと COOL BIZ の命名は一般公募で、涼しい、格好良いという意味の COOL と 仕事、職業を意味するBUSINESS の短縮形 BIZ からなる造語で決定した 期間は、6月1日から9月30日と定められていたが 20007年に初めて「猛暑日」が設定されているように 夏場の気温上昇に伴い、5月1日からの実施となっていった その後の東北大震災の原発事故の影響で電力消費を抑えるために 更に強化され、2012年には SUPER COOL BIZ にまで拡大 2021年には実施期間の呼び掛けを廃止し慣例通り5月1日から9月30日となっている   ここ何年か、ビジネスシーンでのスーツスタイルのカジュアル化と 新商品開発、新たな繊維、工程の進歩によって、以前ほど悪くなく かえって良くなって、カジュアルスタイルが「ダサく」なくなってきた 当時は、ただ上着を脱ぎネクタイを外しただけのおじさんや カジュアルウェア=ゴルフウェアのようなおじさんなど 目に余る「カジュアル」スタイルが多かった、ように思う この光景の差も COOL BIZ なるものが15年も経て定着してきている結果だと   お隣の韓国では、2006年に首都ソウルを中心に取り入れ 中国では、字面だけで涼しげな「清涼商務」を推進し 背広の国イギリスでは労働組合会議が2006年に取り入れたものの 議会、重要会議での服務規定は守られる、さすがの対応 ファッションの国(?)イタリアでは保健省が従業員に対して訴えるものの...

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『美食通信』第十七回「嗜みとしてのゴルフ――マスターズを終えて――」

『美食通信』第十七回「嗜みとしてのゴルフ――マスターズを終えて――」

 今年もマスターズの季節となりました。昨年は松山英樹プロが日本人初さらにアジア人初の優勝という快挙を成し遂げました。まさか自分が生きている間に日本人が優勝するとは思っていませんでしたので、筆者もまた大変感激しました。大学がちょうどコロナ禍でリモートになっていましたので、ついついテレビに釘付けになり、気づくと朝になっている数日でした。最終日、松山選手は最終組でしたので一番ホールから最終十八番ホール、最後のパットを入れて優勝するまでずっとテレビ観戦していました。今年はちょっと残念な結果になりましたがそれでもついつい朝方までテレビに見入ってしまう日々でした。  実は筆者、スポーツが苦手というかあまり好きではありません。団体で行なう競技がとりわけ好きになれず、学校体育は苦痛の日々でした。そんな中、唯一自ら熱中したスポーツがゴルフだったのです。ゴルフを始めたのは小学校五年生の時。ちょうど父の転勤で長野県の諏訪から神戸に引っ越してからということになります。思えば、半世紀も前のことになってしまいました。神戸に引っ越して、父が毎週末、ゴルフの練習場に行くようになったのです。 最初は興味本位でついて行ったのですが、自分も打たしてもらうとがぜんやってみたくなり、毎週父と練習するようになりました。社宅から歩いていける距離に二軒練習場があり、新しくできた方は結構な距離でしたがまだ国道に阪神電鉄の路面電車が走っていて、それに乗るとすぐでした。社宅は一軒家でしたので、小さな庭で父からもらったお古のクラブで毎日素振りをしたり、空き缶を地面に埋めてカップに見立て、パターやアプローチの練習をするようになったのです。基本的なマナーや技術などは父がくれた中村寅吉プロの書かれた初心者用の本を頼りに学んでいきました。  子供ならではの好奇心で我流とはいえ、みるみる上達し、すぐにショートコースに出られるようになり、六年生になる頃には父に連れられ、コースを回るようになりました。父は銀行員でしたので銀行が持っている会員券があり、それをお借りして、名門の芦屋カントリークラブでもプレーさせていただきました。すでに書かせていただきましたが、関西は付け届けが盛んで、お歳暮お中元だけでなく、バレンタインなどことある毎に何か家に届くのですが、その他に休みに家族連れで旅行にご招待下さるなどということもありました。 東条湖という遊園地やゴルフ場といったリゾートを湖畔にしつらえた人口湖があり、そのほとりにある某企業の保養所に数回出かけました。社宅の隣の方とご一緒し、家人は遊園地、自分は父とお隣のご主人と三人でゴルフという訳です。自分はその東条湖カントリーが一番好きでした。関西のゴルフ場は関東の林間コースとは異なり、丘陵コースと言い、アップダウンが激しく、ホールの周囲を木が囲むこともありません。海辺にあるイギリスのゴルフコースをそのまま内陸に移した感じです。ところが東条湖は人口湖ですので、その周囲はフラットでまさに関西では珍しい林間コースだったのです。真夏でも木がありますのでどこか涼やかで実に気分良くプレー出来たのです。 今から五十年も前に小学生がゴルフなどというとよほど特別なことのように思われましょうがそれ程でもありませんでした。当時の会社員は誰もが接待ゴルフ、麻雀等々が仕事のようなものでしたので、自分と同じような境遇のゴルフ少年が同じクラスにいたのです。内田君といってお父様は鐘紡に勤められていました。まさに転勤族の子息です。夏休みが終わって学校が再開すると、お互い、休み中にどこのコースを回ったかなど語り合ったものです。 そのように子供の頃からゴルフをしていたならプロになることを考えたりしなかったのなどと若い友人たちからよく尋ねられるのですが、微塵もそのようなことを考えたことはありません。ゴルフはあくまで趣味、嗜みでしかないというのが常識だったからです。自分が子供の頃、ゴルフを生業にするというのは中卒でゴルフ場に勤め、キャディーから叩き上げるまさに職人の修行でしかなかったからです。 もともと、ゴルフはプロスポーツではなく、「紳士の嗜み」として人気を博してきたのではないでしょうか。実際、筆者の子供の頃、アマチュアゴルフ界には中部銀次郎(1942~2001)という「プロより強いアマチュア」といわれた名プレーヤーがいました。今でこそ、アマチュアゴルフ界はプロになる前の大学生のためにあるかの如くの様相を呈していますが、当時プロゴルフとアマチュアゴルフは別の世界と子供ながらに筆者は捉えていました。中部氏は大洋漁業の社長のご子息。小学校からゴルフを始められ、甲南大学卒業後は大洋漁業の関係会社に就職。サラリーマンをしながら、生涯アマチュアとして活躍されました。ですので、筆者は一度もプロゴルファーになろうなどとは露ほども思ったことはありません。また、父も自分をプロゴルファーにしようなどと考えたことはなかったでしょう。実際、中学二年生の夏に東京支店に転勤になり、船橋の社宅に住むようになってからもゴルフコースには連れて行ってもらいましたが、筆者は以前のような熱心さをなくしていました。それでも、父は別にあれこれ言うことはありませんでした。銀行の同僚が会員権を買うというので、お付き合いで買っていましたが筆者はそれを使わせてもらうこともあまりなく、時々父と一緒に回ったりするくらいでした。 父は筆者が大学に入ってフランス料理に熱中し始めると、銀行の部下の女性行員を二名招いて筆者と四名で毎月フランス料理の食べ歩きをさせてくれました。訪れる店は筆者に任せて、金は出すが口は出さない。ゴルフの時と一緒でした。今は亡き父に心から感謝している次第です。 筆者の母方の祖父はアマチュア野球の審判として、高校野球の甲子園への静岡県大会決勝の主審を務めるなど社会人野球に尽力していました。その縁もあり、母の妹は父の母校ででもある県立静岡商業が甲子園で準優勝した際の監督と結婚し、その叔父はアマチュアゴルファーとして静岡県でもトップクラスの成績を収め、ゴルフショップを経営しています。しかし、筆者は叔父とは一緒に回ったことはありません。ゴルフの話はもちろんしますが。 つまり、ゴルフはあくまで「社交」の一つなのであり、それぞれのテリトリーの中で一緒にプレーすることで人間関係も潤滑になり、生活に潤いが出るのではないでしょうか。筆者は子供の頃、内田君と学校でゴルフの話で盛り上がりましたが、彼と一緒にプレーしようと思ったことはありませんでした。それは内田君には彼の家庭のテリトリーがあり、転校生というその境遇は同じであっても自分の家庭とは異なっていると子供ながらに理解していたからと思います。 一家総出で子供をゴルファーにしようという家庭を見るにつけ、父が平凡なサラリーマンであって本当に良かったと心底思う今日この頃です。     今月のお薦めワイン 「フランスワイン第三の産地 ヴァレ・デュ・ローヌ」 「コート・デュ・ローヌ ルージュ プティ・ロワ 2018年 AC コート・デュ・ローヌドメーヌ・ヴァル・デ・ロワ」 2200円(税別)  今回はフランスの赤ワインでブルゴーニュ、ボルドー以外の代表的ワインを紹介させていただきます。すでに繰り返し申し上げてきましたように、ブルゴーニュは緯度的に赤・白双方の銘酒を産することの出来る実に恵まれた地勢を有しています。ですので、赤ワインはより南が適していることが分かります。そして、ブルゴーニュをそのまま南下した場所に位置するのが「ローヌ」のワインということになります。  ローヌの赤ワインを代表する葡萄品種は何といっても「シラー」でしょう。ボルドーの「カベルネ・ソーヴィニヨン」「メルロ」、ブルゴーニュの「ピノ・ノワール」と並んで世界中でヴァラエタルワインとして造られている品種の一つです。南の葡萄だけにスパイシーで野性味にあふれ、アルコール度数も高い。北ローヌではシラー単品種で造るワインが多く見られ、最北の「コート・ロティ」はその中でも高価な銘酒を生み出しています。また、そのすぐ南に位置する「コンドリュー」は早飲みの高級白ワインの産地でヴィオニエ種という珍しい葡萄品種から造られています。  しかし、多くのローヌのワインはシラーとグルナッシュなどの混醸でスタイルとしてはボルドーに近いと言えましょう。その中でも珍しいのは南ローヌを代表する赤ワイン「シャトーヌフ=デュ=パープ」で13種類の葡萄品種を用いることが出来ます。造り手によっては単品種で造る者もいて、多彩な味わいを楽しむことが出来ます。  今回ご紹介するのはもっともポピュラーな「コート・デュ・ローヌ」の赤です。ブルゴーニュで言えば、ACブルゴーニュに相当するワインです。上記の通り、シラー、グルナッシュ等の混醸で、グルナッシュは南仏のワインでもよく用いられますので、シラーの割合の多いワインを選んでみました。この「プティ・ロワ」はシラー60%、グルナッシュ40%となっています。  造り手はエマニュエル・ブシャール。ブルゴーニュワインを代表するドメーヌ、ブシャール家の一族で父のロマン氏が1965年に南ローヌのヴァルレアに畑を持ったのがこの「ドメーヌ・ヴァル・デ・ロワ」の始まり。エマニュエル氏は97年にドメーヌを継承。2013年にエコセール認証を得るなど自然派ワインを造っています。自然酵母での発酵、樽を用いず、葡萄の味わいそのものを感じられるワイン造りがモットーとのこと。  若くても楽しめる果実味たっぷりのローヌのワイン。ブルゴーニュの洗練さと対照的な野趣味にあふれたパワフルな味わいはこれからの季節、野外でのバーベキューなどにもピッタリかと思われます。是非お試しあれ。 ご紹介のワインについてのお問い合わせは株式会社AVICOまで  略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP

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第二回『銀座の仕立屋落語会・与いちクロークルーム』

第二回『銀座の仕立屋落語会・与いちクロークルーム』

好評のうちに開催された『銀座の仕立屋落語会・たま平クロークルーム』に続き、第二回は春風亭与いちさんによる『銀座の仕立屋落語会・与いちクロークルーム』が5月15日に開催されます。   与いちさんは、いま一番人気の噺家といって差し支えない春風亭一之輔さんのお弟子さん。24歳と若いながらもメキメキと頭角を表す注目株。どうです旦那、今のうちに唾つけときましょう。 何でもかんでもネタにしてシャレを効かすのが大人のお洒落ってぇもんですぜ、銀座でひとネタ、いかがです。   第二回 『銀座の仕立屋落語会・与いちクロークルーム』 日時:5月15日(日曜日)12時45分開場13時開演、終演15時ごろ 場所:ザ・クロークルーム 出演:春風亭与いち 司会 プロデュース:山本益博 会費:3,500円(税込)現金のみ 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで 

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『酒番日記』 映画、音楽、本、時々酒、のこと 第17回

『酒番日記』 映画、音楽、本、時々酒、のこと 第17回

新年度がはじまった毎年目にするロボットのような若者紺のスーツに白いシャツ、臙脂のネクタイ、黒い靴黒のスカートスーツに白いシャツに黒いパンプス手には監理されているかのようなスマートフォン先輩と連れ立って歩く姿は緊張気味、通勤車内はスマホと対話構内ではスマホ片手にうつむき歩きでスマホ頼みの乗り口案内街中では片手にスマホ片手に傘、見るのは画面の道案内気にしなければ良いとは思いながらの何だか気になる雨の大手町4月になると「制服」のようなスーツ、前年までは「リクルートスーツ」そのものの歴史が気になり書店に急ぐ、スマホではなくアナログで「リクルートスーツ」という日本独自の慣行とされるその造語英語に当てはめると「interview suit」というらしいこれもまた日本独自の慣行とされる「就職協定」これによる採用確定とその就職活動時期の集中2018年まで「就活ルール」と名を変えて続いた紳士協定という名の「慣行」そもそも「慣行」という言葉も学問的な用語として確定しているとは言えないらしく…これがはじまった1970年代後半に持ち込まれた親からの相談「何を着せたら良いか?」この相談に対応を仕切れなくなった学校関係者が百貨店に相談こうして売り出された就職用スーツ「リクルート」という名のスーツ就職協定が確立されたことによって一斉に行う採用活動を生み出し、一斉に行なわれる就職活動を生み出しその服務規範も一律ではないかという憶測、推測、予測訪問する企業に幅広く通用する外見を知りたいという欲望こうしてはじまった「リクルートスーツ」そのはじまりは1977年9月とのこと昨今では服装による個性表現を推奨する傾向があり実際「個性的」な外見を目にすることが増えたのは事実ではあるものの当たり障りない服装でまとめるのは当然のことかとも思うそもそも就職活動の際の服務規範を問われたところで何も知らずにこれから社会に出ようとする若者にはわかるはずもなくやはり雇う側、相談される側、伝える側、売る側の責任は大きいと思う伝えたいことが山ほどあり、それを伝えたいと思いながらも大手の服飾に携わる企業の様に「間違いない服」を提案してしまうかもしれずこれが「常識的な服」として伝えてしまうかもしれず…「個性的」という言葉の意味や対義語に思い悩む今日この頃雨を避けた久しぶりのメトロ車内で耳にした会話「この次、どうする?」もちろんスマホに目をやりながら営業先か何かの相談と思える問いかけに「次?次はもっと給料が良いところかな」と、4月の会話に驚いた雨のメトロの大手町汚れたピンクの花弁張りつく東京で「向上心」の意味をも考える雨の4月の午後新しい春を迎えたみなさまへいろいろなことが起こる今もこれからも少しでもやさしい時間になりますようにDiana Krall, Nat King Cole などの名演数あれど今はこの人でA Blossom Fell / Sue Raney令和4年穀雨を迎える頃に酒番 栗岩稔参考文献/リクルートスーツの社会史/田中里尚著/青土社栗岩稔プロフィール鎌倉THE BANK、 銀座7丁目クロージングサロン、木挽町路地裏の酒場 bar sowhat、銀座5丁目 Ginza Sony Park Bar Morita で大人の集う酒場を作り上げ人と酒と酒場をその歴史や文化から掘り下げ伝えていく唯一無二のフリーランスの酒番として活動中2021年夏よりパーソナリティを務める WAH! Radio www.wahradio.org  でお耳にもかかれますようにWebサイト開設のお知らせ栗岩稔のSTYLEを人やモノを通して伝えるメディアとして  https://www.kuriiwastyle.com/ がはじまりました少しずつですが栗岩稔のスタイルにご期待くださいこちらではお目にかかれますように

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『美食通信』第十六回「菅田将暉現象―『ミステリと言う勿れ』をめぐって―」

『美食通信』第十六回「菅田将暉現象―『ミステリと言う勿れ』をめぐって―」

 「月九」と言えば、一九九〇年代のテレビドラマ全盛期、『東京ラブストーリー』、『ロングバケーション』、『ビーチボーイズ』といったトレンディなラブロマンス路線で一世を風靡したものでした。しかし、SNSが発達し、テレビ離れが進む中、テレビドラマ全体がエンタメにその座を奪われ、低迷状態が続いています。そんな中、「月九」も路線変更を図り、『コンフェデンスマンJP』や『監察医朝顔』といったそれぞれがコンセプトを持った個性的な作品で視聴者を取り戻しつつあります。そして、この二〇二二年最初のクール、話題を呼んでいるのが菅田将暉主演の『ミステリと言う勿れ』です。原作は『月刊フラワーズ』に二〇一七年一月初掲載の田村由美によるミステリー漫画。「普通の大学生」を名乗る天然パーマが印象的な主人公、久能整(くのう・ととのう)が次々と不可解な事件を解決していくというもの。  特徴的なのは主人公が極めて無感情な面持ちで、長口舌を繰り広げ、事件の真相を明らかにすることでしょう。若者ですから豊富な経験からではなく、抜群の記憶力と観察力からの推理。実際、人生初の焼肉屋で、「メニュが多すぎて、注文のシステムがわからないから選べない」とお手上げ状態に。ちなみにカレーが好物でジャワカレーとバーモントカレーのルーを半々で作るのがルーティーンとか、サッポロ一番は味噌ではなく塩に限る。しかも、何も具を入れず、封入されている「すりごま」の風味で食するのが最高と食にもこだわりを見せています。筆者が思い出したのは、大学院生時代、博士課程から入ってきた後輩に(といっても年は自分の方が若かったのですが)大変な偏食家がいて、「どうして食べられないの」と尋ねたら「経験がないから」との答えが。「じゃあ、食べてみなければ食べられないかわからないじゃん」と筆者。  このドラマで主人公が解決する事件は家族というテーマが重要な意味を担っていると考えられます。整の初恋?の相手「ライカ」は父親に性的虐待を受け、重い解離性同一性障害(多重人格症)に罹患し、長期入院している女性の最後に残った別人格という設定。かく言う、整も胸に火傷の跡があり、親から虐待を受けていたことを示唆しています。これは犯罪心理学的に言えば、ラカンの言う「家族複合(コンプレックス)」に原因のある犯罪。このような複雑なキャラクターを演じることの出来る若手俳優は菅田将暉をおいて他にいるでしょうか。彼は横浜流星や神尾楓珠のようなイケメンではありませんが、菅田将暉という独自の存在感を放っています。  それは例えば、「スダラー」と呼ばれる「菅田将暉の名言通りに生き、服も食事も思考もすべて菅田を完コピする信者」を生み出すことに。その代表の「将暉」さんは歌舞伎町のホストクラブでナンバーワンになり、テレビにも登場。「これぞ、今どき男子的生き方術」と帯に記された『影ニャでニートでアイドルオタクだった僕が歌舞伎町で指名ナンバーワンホストになって水を売る理由』という本まで出されています。  では、その菅田将暉的生き方でポイントとなるのは何かと言えば、音楽活動とファッションと言えましょう。こうしたライフスタイルの確立は2016年3月20日に放映された『情熱大陸』をご覧になるとその起源を知ることが出来るでしょう。筆者も『美男論』の講義で取り上げたことがあります。この回は通常の製作スタッフが撮影したのではなく、菅田の希望で彼を知る映画監督がフィルムを回したのでした。ある意図を持ったドキュメントというより菅田の日常をありのままに記録に残す形になっています。その中で菅田は部屋を借り、友人たちと服作りに励んでいます。また、GReeeeNの楽曲「キセキ」の誕生実話をもとにした映画『キセキ―あの日のソビト―』(2017年1月28日公開)の主役として、バンドのヴォーカリストを演じ、同じバンド仲間を演じた横浜流星、成田凌、杉野遥亮とスタジオで練習する光景も撮影されていました。このユニットは「グリーンボーイズ」としてCDも発売しています。そして、この辺りから菅田はミュージシャンとしての活動も本格化していきました。 実際にまた、ドラマが終わるこの三月、アルバム『COLLAGE』が九日に、これまで五年間のスタッフによるスナップと私服のコーディネイトを撮り下ろした本『着服史』が二十五日に発売されます。しかも、『着服史』の帯や表紙に使われた写真は俳優の永山瑛太が撮影したもの。以前は「瑛太」と名乗っていた永山も『ミステリと言う勿れ』に犬童我路役で登場。しかも、そのストレートの金髪姿が初見で「これ誰?」と思う意外性に富んでおり、しかも極めて美しい。実は筆者、瑛太時代、やはり金髪で演じた『のだめカンタービレ』(2009~10年)での峰龍太郎が大好きで、瑛太の金髪は大好物なのです。  また、永山だけに限らず、『ミステリと言う勿れ』に登場する事件関係者は皆個性的で魅力的。「ライカ」を演じた門脇麦を筆頭に、虐待された子供を救うため家に放火して両親を焼死させる白装束の「炎の天使」、早乙女太一の美しさにも感嘆。また、『三好達治詩集』の詩を用いて爆破予告をする記憶喪失の爆弾男を演じた柄本佑も実に素晴らしい。菅田将暉の個性的演技は独壇場になるのではなく、他のキャラクターをも生かし、いや引きたてさえもしています。菅田の主役としての存在感は揺らぐことなく、ゲストの俳優の魅力も最大限に引き出させる。こうして、『ミステリと言う勿れ』は実に充実した作品に仕上がっていると言えましょう。  最後に筆者が嬉しく思ったのは、文学作品が重要な役割を担っていることです。爆弾男は『三好達治詩集』を肌身離さず持っていました。そして、何といっても「ライカ」と整の会話がマルクス・アウレリウスの『自省録』を用いた暗号で行なわれるのに整が岩波文庫版の『自省録』を携帯したことで、文庫が増刷されたのでした。いにしえの文人ローマ皇帝(121~180)の人生訓。哲学史的には「ストア派」に属する作品です。美智子上皇后さまの相談役としても知られる精神科医の神谷美恵子氏(1914~79)が昭和二十三年に公刊し、三十一年に文庫になった四半世紀も前の訳が現代に蘇る。さすがに本屋で平積みされていた文庫の帯に整の菅田の写真が使われていたのにはちょっと違和感を覚えました。天下の岩波書店でも背に腹は代えられないか、と。筆者にとって、岩波文庫と言えば、半透明のパラフィン紙をカバーにしていた質素なスタイルこそ本領発揮と思うのですが。  いずれにせよ、菅田将暉現象が「今の」日本文化の様々な領域でその一翼を担っているのは明白。ますます菅田から目が離せません。   今月のお薦めワイン 「フランスのドイツ 多彩なる白ワインの宝庫アルザス」 「レ・プランス・アベ・ゲヴュルツトラミネール 2018年 AC アルザス  ドメーヌ・シュルンバジェ」 3800円(税別)   昨年のクールの第四回目はフランスの白ワインを紹介させていただきました。今年はそのヴァリエーションです。「ワインの王様」、ブルゴーニュワインはその地勢が赤白共に優れたワインを産する場所に位置し、赤はピノ・ノワール、白はシャルドネという最適な葡萄品種を得て、それぞれ単品種のみで多様なワインの世界を構築することになりました。緯度的にブルゴーニュより北は白、南は赤が優勢ということになります。従って、ブルゴーニュ以外のフランスの白ワインの名産地の第一はドイツとの国境にある「アルザス地方」のワインがすぐに思い浮かぶことでしょう。実際、アルザス地方はドイツとの国境をめぐる戦争が起こるたびに所属が変わる歴史を持っています。現在はフランスですが、今回の造り手シュルンバジェはドイツ語読みでシュルンベルガー、パリっ子ならシュランベルジェと発音することからも分かりますように明らかにドイツ系の血を引く人々の住む土地なのです。  従って、アルザスワインの最有力品種はドイツワインと同様、リースリングとなります。しかし、アルザスではその他にグランクリュを名乗れる品種として、リースリングと共に今回ご紹介するゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカの四種があり、他にもピノ・ブラン、シルヴァネールといった品種が単品種で造られています。もちろん、「ヴァン・ダルザス」と名乗る混醸のワインも造られていますが、やはり単品種で造られたワインの方が高級です。  今回、その中から「ゲヴュルツトラミネール」を選ばせていただいたのは、極めて個性的かつアルザスが主たる産地であるからです。その個性は「香り」にあります。おそらく、世界中の白ワインの中で一番香りが強いのではないでしょうか。それも香水のようなフルーツ系をベースにスパイスが効いたフローラルな実に印象深い香りで一度体験すれば、次回から香りを嗅ぐだけで言い当てることが出来るでしょう。味わいは辛口が主ですが、アルザスには稀少な甘口もあります。辛口は香りに見合うコクがあり、口当たりは滑らか、微かな塩味も感じられます。  今回ご紹介させていただくシュルンバジェは1810年創業の歴史あるアルザスを代表するドメーヌの一つ。現当主、アラン=ペイドン氏は七代目とのこと。栽培はビオロジック。所有する畑の半分がグランクリュ畑。今回はグランクリュでなく、リーズナブルなスタンダードのキュヴェの方を紹介させていただきますがそちらも15年未満のグランクリュの若木の葡萄が使用されているそうです。ボルドーで言えば、セカンドワインに相当します。「重たさのないリッチさ」がモットーのワイン造りとのこと。他の品種、グランクリュとラインナップも多彩なので、興味を持たれたら、他のワインもぜひお試しあれ。 ご紹介のワインについてのお問い合わせは株式会社AVICOまで  略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP  

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【お知らせ】『銀座のテーラー落語会』がスタートします。

【お知らせ】『銀座のテーラー落語会』がスタートします。

 近ごろなんだか酷いニュースや大変なことが多くないですか?、暗い話が多くってほんと嫌になっちゃいますよね。こちとら面白おかしくお洒落して、お気楽に暮らしたいっていうのになんだかそれも憚られるような…。 そんなときはあれですよ、そう、ちょっと笑いが欲しいなって気分でしょ。 流行りの病も威張りたいヤツも他所様から何か盗ろうってのも弱い人の苦労に何にも感じない酷いヤツもまとめてネタにして笑ってやろうってのが良い大人なんじゃないかって、そうお思いになりはしませんか? そうですよ、なんでもシャレに、洒落ていこうって、それが大人のお洒落だろっていうことじゃありませんかねぇ。そんなこんなでこの度、『銀座のテーラー落語会』始めようってえことにあいなりました。   ザ・クロークルームがお届けする『銀座のテーラー落語会』。プロデュースはなんと落語界でも重鎮である料理評論家の山本益博さん。司会もご担当いただけます。ご出演いただく噺家さんは山本益博さんお墨付き、出世間違いなしで大注目の二つ目さんに月替わりで登場いただいて、ほぼ毎月のレギュラー開催の予定です。 注目の第一回に登場いただくのはドラマ「ノーサイドゲーム」でのご活躍も記憶に新しい林家たま平さん。曽祖父は七代目林家正蔵、祖父は初代林家三平、父は九代目林家正蔵と落語会のサラブレッドは今まさに伸び盛り、落語好きのみならず大注目のたま平さんのお噺を間近で堪能できるとても貴重な機会です。席数は20席とプラチナチケット化は必須、お見逃しなく。   第一回 『銀座のテーラー落語会・たま平クロークルーム』 日時:4月17日(日曜日)13時開演 場所:ザ・クロークルーム 出演:林家たま平 司会 プロデュース:山本益博 会費:3,500円(税込)現金のみ 申し込み、お問い合わせは info@thecloakroom.jp まで 

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スタッフ募集のお知らせ

スタッフ募集のお知らせ

ザ・クロークルームでは一緒に働いてくれるスタッフを募集しています。   募集要項は以下の通りです。 応募条件 ・洋服が好きな方 勤務内容 オーダーサロン営業に関わる諸業務 勤務条件 ・雇用形態 アルバイト(勤務状況、希望により正社員登用あり) ・勤務日 週に2日から5日の間で相談 ・勤務時間 10:15から18:15の間で相談 ・報酬 時給1,400円から ・通勤交通費支給(上限あり) 採用人数 若干名 勤務場所 ザ・クロークルーム 東京都中央区銀座7-10-5ランディック第三銀座ビル5階   応募方法 info@thecloakroom.jp まで履歴書と志望動機を添えてご連絡ください。    

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『酒番日記』 映画、音楽、本、時々酒、のこと 第16回

『酒番日記』 映画、音楽、本、時々酒、のこと 第16回

師というかオヤジというか、とても大きな存在の人の事務所の片付けに行った人一倍きれい好きで置くものの位置や置き方まですべて計算していたその人の事務所とは思えないほど散らかされていた言葉を失くし無言で片付けたそのすべてのものに見覚えがあったナポリで仕立てたジャケット、シャツ、ネクタイ、すべてが散らかされていた人とのつながりを大切にして、人一倍寂しがり屋だった人の大切な場所で他人の冷たさを感じるほど、とにかく散らかされていた書斎には愛蔵書、数々の手掛けた作品とその資料その傍らの棚には埃まみれのドレスシューズがあったモンクストラップ、ストレートチップ、ウイングチップ、スリップオンシューズ灰色の靴になっていた黒い靴にやるせなくなり、そのままかばんに預かった似たようなサイズだったことを思い出し、大切に履けることを願いながらしまったその夜ひとりラフロイグソーダを呑みながら、ラフロイグで靴を磨いた元通りの輝きを取り戻して安心したが、切なく酔ったあれから7年が過ぎたこの春、久しぶりの立ち仕事でその靴の意味を再認識したそれぞれのスタイルに合う靴、それぞれの場面で必要な靴それぞれの履き心地、それらを靴の底から体感した仕事先に歩く時、室内にいる時、一歩踏み出す時すべて足の裏から何かを伝えている靴地に足が着いているかどうかを問われるようにフィレンツェの石畳を意気揚々とイタリア靴で歩いた若い頃に靴底から感じたあの靴の意味以上の生き方すべてのスタイルを感じる靴の意味を銀座の端っこで足の裏で感じたその仕事を終えた夜ラフロイグで磨き、ラフロイグソーダを呑んだ酒のこと、音楽のこと、服のこと、旅のこと、すべてのスタイルを体現し、伝えてくれた時間がかかり過ぎたものの今さらながら感謝し心地よく酔ったその人のことを思うと必ずマンハッタンを思い出す30年近く前は出張で訪れることが多かった、ニューヨーク州マンハッタン仕事の合間に訪れた5番街の百貨店でスーツのセールに遭遇する小さい日本人には揃ったすべてのサイズに買う気満々の品定め皺だらけのカジュアルシャツ、プレスされていないチノパンに汚れたデッキシューズの若者目に入らないかと思うほどに目もくれず、声もかけない老齢の専門スタッフ翌日、プレスの効いたボタンダウンシャツにグレーのパンツに磨いたリボンタッセルで再チャレンジ「日本からかい?昨日もいたね」と同じ専門スタッフ「このスーツが良いかな、いつ帰る?それとも住んでるのかい?」「明後日の朝一番のフライトです」「そうか、わかった、明日来れるかい?」と特別のフィッティングルームに案内され最上のサービスで紺無地のスーツを買った今では着ることすら出来ないものの大切な記憶になった街での出来事ある映画の中でアメリカの片田舎からマンハッタンに向かう孫か息子に「困ったことがあって誰かに尋ねることがあったら、その人の靴を見て判断しなさい」という老人のセリフも思い出すマンハッタンには350回行ったと嘯くこともあったその人詳細に街のことを教わり30代初めは年に2回ずつ訪れたマンハッタン紹介されて、会う人、行く店、行く酒場、すべてが糧になっているこのことは間違いない生き方というか、そのスタイルを体現してくれたその人木挽町の小さな酒場に突然現れ話し込んだたくさんのことの中で「ギター弾きの面白い若いのがいるから聴いてやってくれるか」と託されてから10年を越えたその「若いの」が作った曲を今ここで命日が近づく頃にSTYLE   https://youtu.be/MoW6biLcsgM を令和4年春分の日の前に酒番 栗岩稔栗岩稔プロフィール鎌倉THE BANK、 銀座7丁目クロージングサロン、木挽町路地裏の酒場 bar sowhat、銀座5丁目 Ginza Sony Park Bar Morita で大人の集う酒場を作り上げ人と酒と酒場をその歴史や文化から掘り下げ伝えていく唯一無二のフリーランスの酒番として活動中2021年夏よりパーソナリティを務める WAH! Radio www.wahradio.org  でお耳にもかかれますようにWebサイト開設のお知らせ栗岩稔のSTYLEを人やモノを通して伝えるメディアとして  https://www.kuriiwastyle.com/ がはじまりました少しずつですが栗岩稔のスタイルにご期待くださいこちらではお目にかかれますように

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『美食通信』第十五回「ヴァレンタイン考」

『美食通信』第十五回「ヴァレンタイン考」

 二月に入ると毎年何だか憂鬱になります。このコロナ禍で外出を控えているのですが、一人暮らしの筆者は近所のスーパーに買い物に出かけないわけには行かず、レジを済ませて買った品物を袋などに詰めるスペースの脇がヴァレンタインデーのチョコレートを売る臨時のコーナーになっているのです。この人生ヴァレンタインに縁のない筆者とはいえ、急ごしらえの大々的なスペースに圧倒され、なんとも惨めな思いに苛まれるのです。  思えば、ヴァレンタインデーにチョコレートをプレゼントするという習慣はお菓子業界の戦略で日本独自のものであることは周知のこと。ただ、その起源は諸説あるらしく、戦前の「モロゾフ」製菓の広告であるとか、戦後、メリーチョコレートが伊勢丹でキャンペーンを行なったのが最初など定かではないようです。ただ、その習慣化は1970年代、小学校高学年から高校生の女子が好意を持つ男子にチョコレートを贈るという行為が広まり、80年代に入ると大人たちの間でも「義理チョコ」といった同僚や上司への気遣い、さらには「ホワイトデー」といった返礼の商戦が展開していった模様。筆者は70年代初めに小学校高学年になっていましたので「本命チョコ」の洗礼をもろに被っていたわけです。しかも、ちょうど父の転勤で長野県の諏訪から神戸に転校したのは小学校五年生の時でしたので、「モロゾフ」の本拠地神戸ではヴァレンタインは一大行事だったのです。女子からチョコをもらうことはありませんでしたが、父が銀行員で取引先にモロゾフ、ゴンチャロフといった地元の菓子会社も含まれていましたので、ヴァレンタインには家にチョコレートの詰め合わせが贈られて来ました。チョコ好きの筆者としてはモテない虚しさを覚えながらも、チョコレートには不自由することなく過ごすことが出来たのです。  その後もヴァレンタインのチョコにはまったく縁のないまま現在に至っているのですが、唯一の例外で、昔の教え子のNさんから毎年律義にヴァレンタイン当日にチョコレートが贈られて参ります。Nさんはキャリアウーマンで多忙な方なのですが、昨年の『美食通信』一周年のイヴェントにも紅一点参加下さり、場を盛り上げて下さいました。「按田餃子」の按田優子さんと大学の同級生であの年の学生さんとは御縁があるようです。二十年近く前、生死の淵を彷徨う二か月の入院を余儀なくされたことがあるのですが、その際もNさんはライターのO君と一緒にお見舞いに来てくださり、当時伊勢丹に上陸したばかりのジャン=ポール・エヴァンのチョコを持参して下さいました。筆者が今生の別れにエヴァンが食べたいとリクエストしたらしいのですが、何せ重篤な病で精神的にも混乱していて当時の記憶がおぼつかないのです。  また、ヴァレンタインデーが毎年の恒例行事となると、プレゼントするものがチョコレートだけではなくなってきました。ワイン業界もエチケットにハートマークをあしらった銘酒シャトー・カロン=セギュールを筆頭にヴァレンタインが名前についているシャトー・ロル・ヴァランタンなどあの手この手でヴァレンタイン用のワインをプレゼンしています。  しかしこの時期、筆者の脳裡をよぎるのはジャズのスタンダートナンバー、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」です。一時期、1950年代後半の女性ジャズヴォーカルにはまった筆者にとって数々の名唱に遭遇してきましたが、やはりまず聴くべきはチェット・ベイカー(1929~88)の演奏でしょう。もともと、1937年に発表されたロジャーズ/ハートのミュージカル『ベイブス・イン・アーム』の劇中歌で、歌唱を広めたのはフランク・シナトラ、またトランペットの巨匠マイルス・デイヴィスがインストナンバーとしてカバーしたことで有名になりました。ベイカーはトランペッターであり、また独特の中性的な声とそのイケメンぶりで50年代、時代の寵児と謳われ大変な人気を博しました。そんなベイカーの事実上のデヴューアルバム『チェット・ベイカー・シングス』(1954~56年録音)には「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」も収録され、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」といえば、ベイカーのこの録音の名前が挙がることでしょう。「パシフィック・ジャズ」レーベルから出されたアルバムは白Tのベイカーがマイクの前で歌う姿が赤・黄・青のトリコロールを背景に浮かび上がるというジャケットがまた秀逸。レコードの時代、ジャケットは購買力を左右するものであり、また芸術性も兼ね備えた重要な要素だったのです。  確かに上記のアルバムでのちょっと物憂げなハイトーンヴォイスのベイカーの歌唱はお洒落で素敵なのですが、他の曲に比べ演奏時間も短く、印象が弱い気がします。同じアンニュイな歌唱なら「ザ・スリル・イズ・ゴーン」や「アイ・フォール・イン・ラヴ・イージリー」などの方が聴きごたえがあるか、と。筆者がお薦めするのは1958~59年にミラノでステレオ録音された『チェット・ベイカー・ウィズ・フィフティー・イタリアン・ストリングス』に収められた「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」です。実はこの演奏はオリジナルLPには収録されておらず、CD化された際に復刻されたもの。ベイカーは麻薬中毒でこの後不遇の時代を過ごし、70年代後半から活動を再開。80年代に入ると86年、87年と来日を果たすなど活躍の場を広げましたが、88年アムステルダムのホテルの窓から転落死するという波乱の人生を送りました。このアルバムもアメリカにいると逮捕される危険があったのでヨーロッパへ脱出し、その旅先で録音したもの。しかし、60年夏にはイタリア警察に逮捕され、61年末まで活動停止に。ここで聴かれる「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」はパシフィック盤のような気だるいものではなく、もっと深刻でメランコリックな歌唱。ストリングスの海に溺れてしまうのではないかと不安になるような印象深いもの。このアルバムでは歌っているのも半分であとはトランペットソロとパシフィック盤のような勢いはまったく感じられません。当時、彼が置かれていた状況を反映しているのかも。  もちろん、女性ヴォーカルにも名演は多々存在します。例えば、ダイナ・ショアがアンドレ・プレヴィンといれた『ダイナ・シングス・プレヴィン・プレイズ』(1959~60年録音)に収められた「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」は落ち着いた大人の女性の魅力にあふれ、後にクラシックの指揮者に転身したプレヴィンのピアノのセンスの良さが光ります。しかし、今回色々聴き直して圧倒されたのが、アニタ・オデイ(1919~2006)が1958年に録音した『アニタ・オデイ・シングス・ザ・ウイナーズ』に収められた歌唱です。ご機嫌なエリントンの「A列車で行こう」から始まるアルバムで「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」の直前はビッグバンドをバックにスウィングしまくる「シング・シング・シング」と果たしてどうなるかと思いきや、ほとんど譜面とは異なった音程で壮大なオデイ独自の世界を繰り広げて行く、堂々と歌い上げるオデイの何と魅力的なことよ。筆者はオデイが最後に来日した1994年のライヴを聴く機会を得ましたが、50年代の偉大なシンガーを生で聴けたのはオデイが唯一でその貴重な体験は今でも鮮明に覚えています。当時はオデイのクセの強い歌唱が苦手でどうしたものかと持て余してしまっていたのですが、今聴くと50年代後半から60年代初頭のいわゆるヴァーヴ(レーベル)時代のオデイのアルバムはどれも高水準で外れがないのに驚かされました。  さあ、珈琲を淹れて、昼間Nさんから届いたエヴァンをいただくことにしましょう。さて、どの「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」を聴くことにしましょうか(2022年2月14日、脱稿)。   今月のお薦めワイン 「イタリアのオールラウンドプレーヤー、ヴェネトのワイン」 「マシエーロ メルロ 2017年 DOC ブレガンツェ・ロッソ アンガラーノ」 4500円(税別)   イタリアの二大ワイン産地(トスカーナ・ピエモンテ)はどちらもイタリア北部に位置しますが、イタリア北部で最もワインの生産量が多いのはヴェネツィアを州都とするヴェネト州です。ソアーヴェなど白ワインが主であるのですが、カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネなどフランスの葡萄品種に適した土地でもあり、街の気軽なイタリアンなどでキャンティやモンテプルチアーノなどと一緒にリーズナブルな価格で提供されているカベルネなどはきっとヴェネト産です。もちろん、イタリアでボルドーの葡萄品種を使って上質のワインを造っているのはトスカーナのスーパートスカンと言われるワインやDOC「ボルゲリ」を名乗るワインですが、気軽に楽しめるカベルネをはじめとしたフランスの葡萄品種のワインはほとんどヴェネトのワインです。これは、フランスでは南仏のヴァン・ド・ペイ(現在、IGP)でカベルネなど他の地方の葡萄品種のワインを手頃な価格で造っているのに類似しています。  前回、フランスでボルドーに似たワインとして南西部のカオールを紹介させていただきました。今回はその応用で、イタリアでボルドーに似たワインをお探しの場合は昨年の「ボルゲリ」が筆頭に思い浮かびましょうが、より手頃に楽しめるのはヴェネトのワインであることを知っていただきたいのです。しかも、フランスワインの葡萄品種であれば、ピノ・ネーロ(ピノ・ノワール)やリースリングなど主要な産地の葡萄品種はどれも造っていますので何かと使い勝手が良いかと思われます。  また、近年はコスパだけを売りにするのではなく、品質にもこだわったワインを造るようになっています。今回紹介させていただく「マシエーロ」もDOCブレガンツェを名乗るメルロ100%のワインです。ジョヴァンナ家五人姉妹による家族経営のワイナリー。イタリアを代表する醸造家マルコ・ベルナベイをコンサルタントに招くなど品質にこだわったワイン造りを行なっています。1570年完成のワイナリーの建物「ヴィラ・アンガラーノ」は、アンドレア・パラディオの設計で、1996年、ユネスコの世界遺産に登録された由緒あるもの。エリザベス女王の母君、エリザベス王太后(1900~2002)がよく訪れたそうで、王太后はメルロを愛飲していたと言われています。  王太后がヴィラで飲まれたワインの現在形を是非、お試しあれ。 ご紹介のワインについてのお問い合わせは株式会社AVICOまで  略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP

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『酒番日記番外編』【bar sowhat 2011-2021】

『酒番日記番外編』【bar sowhat 2011-2021】

立春を迎えた2011年の立春にはじめた木挽町路地裏の酒場 bar sowhat2021年の立春を過ぎて終わった木挽町路地裏の酒場bar sowhatそして、1年後の2022年2月22日扉を閉じるまでの最後の10日間を切り取った写真集が発売される写真家 木内和美さんとグラフィックデザイナーの澤田明彦さん二人のご厚意からはじまったこの企画閉店する酒場の写真を残すことが出来るこの幸運なくなった酒場の景色をカタチとしてみなさまの記憶に残すことへの感謝と恥じらい10年しか出来なかった酒場の主として色々な想いがあるもののこの酒場に限らずこの道を選んだ頃からのすべての縁みなさまの支えがあって初めて生まれたカタチだと終わった酒場のことを今さら記すのはどうかと思うがこの酒場の10年間常に心掛けていたこと忘れがちな旬、月の暦、その日の天気今日の服、今日の音楽、今日の本、たまに映画、そして酒そんな日常が、みなさまの時間が刻み込まれた酒場の景色その景色が残されるありがたい心からそう思えるようになった自身の40歳を想い描いて道を決めた30歳風を感じ、流れを受け止めながらももがき考え続けてきた20年たくさんの街の至るところで感じ入ってきた人、モノ、酒、音楽、言葉人に出会い、モノに出会い、酒と向き合い音楽に聴き入り、言葉に出会い、吸収してきた50歳を越えた今栗岩稔って誰よ、栗岩稔ってどうよ、と自問自答し深く考える良い機会になったことは間違いなく栗岩稔として伝えるべきことを自身が発信するメディアとなって伝えていくことを再認識する日々そんな栗岩稔ですが今しばらくお付き合いいただけたら幸いですたくさんの喜怒哀楽に彩られたたくさんの春夏秋冬を思い出し今ここで改めてありがとうございます令和4年2月吉日酒番 栗岩稔宣伝ついでにご案内を[bar sowhat 2011-2021]photo: Kazumi Kiuchidesign: Akihiko Sawadawriting: Minoru Kuriiwa銀座・木挽町の路地裏「bar sowhat」酒、音楽、本、しつらえ…。至福の時間をかたちづくってきた酒番 栗岩稔のディテールを終焉の日々とともに捉えた一冊販売価格¥4,400(税込)購入者限定  sowhat 特別音源付( 栗岩稔 監修 WAH! Radio選曲家 大塚広子)「bar sowhat 2011-2021」出版記念展会期: 2月22日(火)~27日(日)時間: 13:00~19:00( 最終日のみ18:30閉店)会場: 森岡書店 東京都中央区銀座1-28-15問い合わせ: 03-3535-5020栗岩稔プロフィール「鎌倉THE...

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『美食通信』第十四回「想像のグルメ」

『美食通信』第十四回「想像のグルメ」

 明けましておめでとうございます。今年も拙文を楽しんでいただければ幸いです。  さて、年末年始どのようにお過ごしでしたでしょうか。筆者は千葉の郊外住宅地に住む独居老人ですのでおせち料理を食べるでもなく、いつも通りの生活を送っておりました。一人寂しく食卓につきますのでどうしてもテレビをつけてしまいます。静寂の中での食事は苦痛に過ぎませんので。フランス料理では会話を楽しむからこそ食事に数時間かかるのであり、「黙食」ではフランス料理の醍醐味は堪能できません。もちろん、筆者も大学生の頃、フランス料理を一人食べ歩いた時期がありました。それは勉強というか修行というか、テイスティング能力を高めるため家で毎日ワインを開け続けたのと同じことで、フランス料理を堪能すること、時間と空間を楽しむ「美食」を実践するための前提だったと言えましょう。フランス語を活用するためにはフランス語の文法を学び、単語や人称変化を覚えなければならないのと同じことです。  実際、1994年に海外研究でパリに一人出かけた際、ビストロで昼食くらいは取りましたがグランメゾンへディナーに行く気にはなりませんでした。当時は珍しかったパリの日本人オーナーシェフの店「レ・キャルト・ポスタル」(一区、マルシェ・サントノレ)でランチをした際、隣のテーブルにきちんとした身なりのサラリーマン四人組(男女各二名)が座るなり、メニュを広げ、何を食べるんだと何を飲むんだと喧々諤々話し合いを始めました。その料理ならこのワインだろうとか、なかなか決まらず、それでも最終的に白・赤一本ずつボトルでワインを注文し、良く食べ良く飲み、良く話すこと。もう圧倒されました。これこそ、フランス料理の醍醐味ではないか、と。ですので、95年、96年とパリに出かけた際は明治大学の学生さんにご同行願い、昼はビストロ、夜は星付きグランメゾンと一週間以上毎日食べ歩いたものです。もちろん、昼も夜もワインをボトルで頼みました。筆者は少食で一口試食すれば充分という訳で、たくさん食べて下さる方と出かけるのを常にしています。グランメゾンになりますと、当時はアラカルトが常識でしたのでオードブル、メイン、デセールの三皿しか頼まないのですが、何故か気づくと12時近くというのが毎回でした。自分たちは7時に予約を入れますがフランス人はだいたい8時頃やって来て、日付が変わりそうなのでそろそろ我々が退散しようとしてもまだ腰を落ち着けて話に興じています。それもそのはず、当時筆者でさえ、一食一人二万~三万円の予算だったのですから、お金をかけた分時間と空間を堪能し尽そうというフランス人の自然体の在り方に感嘆した次第です。ですので、元々外食が好きではない筆者は自ら外食する場合、ほぼフランス料理店にしか出かけなくなりました。もちろん、お金がかかるので頻繁に外食できないからでもあります。  そんな筆者ですので、一人家での食事で静寂に耐えられず、テレビをつけてしまうのですが年末年始はろくな番組がなく、しかもグルメ番組が多い。お笑い芸人やタレントが大勢で馬鹿の一つ覚えの「美味しい、美味しい」を連呼する情報系の番組を見る気になれず、もっと嫌なのは料理人が出てきて、コンビニやファミレスの商品を審査する番組です。昔、『料理の鉄人』という番組がありましたがあの番組がまだましだったのは、料理人は審査される側であって、審査する側ではないからです。しかも、専門外の商品にまであれこれ言うのはいかがなものか。案の定、トラブルが生じました。イタリアンのミシュランシェフがコンビニのおにぎりか何かを、見映えが悪いので食べる価値なしと食せず失格としたとのこと。視聴者から批判が殺到。しかも運悪く名前のよく似たイタリアンシェフの店まで苦情が殺到し、風評被害甚だしいこと。さらに、業界通を気取るネット文化人?があれはテレビ局の台本通りに動いたのだからシェフが可哀そうといった本末転倒の言説まで飛び出して呆れ返りました。もし、そのシェフが台本通りに演じていたとしたら、そのシェフは自身では審査していないのであり、判定能力に欠けているやもしれないわけです。というか、本物のミシュランシェフであれば、そんな番組には出ないでしょう。出る必要がないからです。とんだ茶番に過ぎません。  そんな中、筆者はテレビ東京の『孤独のグルメ』をずっと観ていました。年末には九時間連続で再放送していた日もあり、朝食、昼食と居間に降りていき、テレビをつけると松重豊氏演じる「井之頭五郎」がもくもくと一人食事をするシーンが出てまいります。結局、大晦日も『孤独のグルメ』の特番を見終わって、新年を迎えることになりました。  もうお気づきかと思いますが、筆者もこの『孤独のグルメ』大好きなのですが、通常のファンの皆さんと筆者が決定的に違うのは筆者が主人公のような食事を絶対にしないというこの一点に尽きます。つまり、筆者は紹介された店に出かけることは少なくとも一人では絶対にない。しかも、井之頭五郎は酒を一切飲まず、頼むのはだいたいウーロン茶。しかも、大食漢で炭水化物大好き。筆者はデセールを必ず食するのでそれまで炭水化物は基本食しません。ご飯はもとより、麺類も。フレンチに出かけてもパンにはほとんど手をつけません。    主人公が横浜の洋食店に立ち寄った際、ハンバーグ定食か何かを食した後、さらにナポリタンを平らげていて、もう驚くばかり。その食べっぷりが見事で松重氏は本当に食されているというから感心するばかり。その店なら自分も行ってみたいと思いますが、一人では絶対無理で何名かで出かけて、自分は単品で料理だけ取って、他の方たちの料理を味見させていただき、ワインなどあれば一緒にいただきたいとは思うものの……。まあ、その可能性は限りなく低いわけです。同じ横浜の中華街で五郎がフラリと入ったこじんまりした中華料理店もたまたま友人たちと「スカンディヤ」に行くときその前を通ったのですが行列が出来ていて、行ってみたいけれど予約が出来ないなら無理だねえ、と。   そう言った意味では松の内が明けた頃に放映された『ラーメン大好き小泉さん』もとても楽しく拝見しました。ラーメン大好きな女子高生たちがあちこちのラーメン店を食べ歩くのですが、何時間も並んだ末に十分そこいらで食べ終わってしまう。しかも麺と来れば、筆者に最も縁のない食べ物なのですが何故か見入ってしまいます。何故なのか。  井之頭五郎は黙食しているのですが、心の声が食事中ずっと流れていて、何が美味しいのかを実に雄弁に語ってくれるのです。小泉さんも食べ終わった時の至福の表情もさることながら、食するラーメンについて語る語る。店主の苦労話や解説まで聞くことが出来ます。つまり、食について詳しく語られることで、筆者など決して口にしないものでありながら、想像力がフル稼働して、きっとこんな風に美味しいのだろうなあと思い描くだけでもう脳が喜ぶというか幸せな気持ちになるのです。  タレントたちの「美味しい」の連呼や、ミシュランシェフの見映えが悪いから食する価値なしという言動は想像力がまったく働かない虚しい「言葉」の浪費に過ぎないのです。想像力を掻き立てる「言葉」こそ、「美食」を語る者が磨きに磨きをかけねばならぬもの。とすれば、明日は我が身と常に反省する毎日です。   今月のお薦めワイン 「ボルドーがない場合はカオールかマディランを」 「カオール 2015年 AOPカオール ドメーヌ・レ・ロック・ド・カナ」 2800円(税別)   昨今、気軽で小洒落た飲食店であれば、何処でもワインを置いてあります。その場合、ワールドワイドなチョイスの場合が多いかと思います。そうした場合、ボルドー、ブルゴーニュは高くなりますし、専門性も高い。そこでリストに載っていない場合も多々見受けられるかと思われます。そんな場合、ボルドーっぽいタンニン=渋みのしっかりした濃厚なワインを飲みたいと思ったときに意外にリストアップされているのが「カオール」、「マディラン」といった地名=アペラシオンのワインです。実際、これらのワインはボルドーを流れるガロンヌ河の上流域、南西地方と総称される地域で造られています。  その中でも「カオール」はボルドーで補助品種として用いられている葡萄マルベックを最低でも70%使用したワインですので必然的にボルドーと類縁性があります。地元ではコー(コット)と呼ばれているマルベックで造られる「カオール」は別名「黒ワイン」とも呼ばれ、色が濃く、タンニンも豊富で熟成させることも可能です。ボルドーワインを素朴にしたような味わいと思われれば良いでしょう。しかし、中でもシャネルが経営しているシャトー・ラグレゼットはさすがに洗練された造りで価格も若干高めですが一度お飲みになられる価値はあります。また、カオールが無くてもアルゼンチンの気候がマルベックに合うようで、アルゼンチンではリーズナブルなマルベック100%のヴァラエタルワイン(品種表示ワイン)を造っていますのでお店のリストに見つけることが出来るかもしれません。カオールとアルゼンチンのマルベックを飲み比べてみるのも良いかもしれませんね。  ちなみに「マディラン」の方はタナという葡萄品種を主に造られており、こちらも濃厚でタンニンの豊富なワインとなっています。アラン・ブリュモン氏が造る「シャトー・モンテュス」はマディランを代表する銘酒であり、トム・クルーズが自家用ジェットで買いに来るとか来ないとかで有名に。  今回ご紹介する「カオール」は、約2000年前、ガリア人がローマ侵略の際植樹した最初の葡萄畑の一つという歴史あるドメーヌ。マルベック100%、ビオロジックで造られています。熟成にも耐えるようですので程よくこなれた感じを楽しめるかと思います。価格もリーズナブルですので、是非お試しあれ。  ご紹介のワインについてのお問い合わせは株式会社AVICOまで  略歴関 修(せき・おさむ) 一九六一年、東京生まれ。現在、明治大学他非常勤講師。専門は現代フランス思想、文化論。(一社)リーファーワイン協会理事。著書に『美男論序説』(夏目書房)、『隣の嵐くん』(サイゾー)など、翻訳にオクサラ『フーコーをどう読むか』(新泉社)、ピュドロフスキ『ピュドロさん、美食批評家はいったい何の役に立つんですか?』(新泉社)など多数。関修FACE BOOOK関修公式HP

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『酒番日記』 映画、音楽、本、時々酒、のこと 第15回

『酒番日記』 映画、音楽、本、時々酒、のこと 第15回

友人の結婚式の席に招かれた今までは酒場の主たる者は表舞台に出ることなく黒衣に徹するべきと思っていただから出席することはなかったあの路地裏での数年間特に世界中の人々が距離を保ち声を潜めるようにしていた数年間少しだけ距離の感覚が変わった招いてくれた友人はいつも酒場にいてくれた多岐に渡る深い会話、酒の知識世界的な視点とその言語、そして同郷たくさん話をした小さな小さな酒場から大きな大きな世界が広がった自身に課しているお客様との距離感とても大切にしているこの感覚この頃から少しだけ近くなった俗に言う「価値観」が少しだけ変わったその酒場を昨年春に幕を閉じたまたその距離が遠くなったそんな時に祝いの大切な「ハレ」の席に招かれた故郷の古い言葉で「およばれした」縁がつながっていることに感謝したその祝いの場にも思い入れが深かった昭和3年設立の会員制社交クラブ若かりし頃、数回連れていっていただいたその場には憧れの時間が流れていた江戸時代の古地図にもある大名屋敷が立ち並ぶ狸穴坂時代の流れと世の中の流れとともに場所を変えながらあり続け旧尾張藩主の大名屋敷跡に落ち着いたそのクラブのバンケットホール自然光を採り入れ、天井が高く開放的な空間に余計な装飾はなく最低限に必要な色彩とスタッフの心地好い対応に彩られたその時間案内されたテーブルに恐縮したその位置に座りそこに居ることの意味を考えたここに居る自身の装い、礼を以ている服装かどうか、振る舞いはどうか背筋が心地好く伸びたこの席に居ることを客観的に見ながら心地好い時を過ごした常に姿勢を正し、襟を正し、酒場の主が失礼のないようにとても美味しく酒をいただいた酒場で毎週響いていたギターの音色がホール全体に響いたとても心が震えた初めて感動したそして色々なことに感謝した酒場の意義、流れる時間、そこに居るということそこにあるということ酒場の奥深さを再認識しあの10年間に改めて感謝した酒場でことある毎に選曲し流していた楽曲二人の顔が揃うと選ぶことが多かった楽曲二人の大切な共同作業の場面で選ばれた楽曲今一度ここで聴きたい、聴いてもらいたい、残したいThe Miseducation of Lauryn Hill より Can't Take My Eyes Off Of You を世界平和を声高らかに唱えるつもりは毛頭ないし出来ないただ、やさしい時間を体感した今この時間を振り返りやはりこういう時間は必要だと強く感じた人と人が顔を会わせ、酒を酌み交わす和やかな時間、笑顔溢れるやさしい時間世界中に分け隔てなく少しでもやさしい時間が流れますように酒の席が美しい時間でありますように醜い時間になりませんように令和4年大寒を迎える佳き日に酒番 栗岩稔栗岩稔プロフィール「鎌倉THE BANK」「 銀座7丁目」「木挽町 bar sowhat」「銀座Sony Park Bar Morita」で大人の集う酒場を作り上げ「人」と「酒」と「酒場」をその歴史や文化から掘り下げ伝えていく唯一無二、フリーランスの「酒番」として活動中2021年夏よりWAH!radioパーソナリティ開局1周年を迎えた WAH! Radio www.wahradio.org  にてお耳にかかれますように

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